高殿アカリのゆるゆるブログ

映画、漫画、小説など心に刺さったものについて、ゆるゆると書いていくブログ。ときに、ちょっとしたエッセイ風味も。

少女漫画『偽りのフレイヤ』が最高に素敵だったという話。


こんにちは。
高殿アカリ(@akari_takadono)です。

今回は、2018年4月10日に白泉社より刊行された少女漫画『偽りのフレイヤ』について語りたいと思います。
LaLaDXにて連載されているこの作品は、泣き虫な主人公フレイヤが自国を守る為に、フレイヤと瓜二つの顔を持つ王子のフリをして成長していく物語です。
所謂、設定だけを見れば、男装主人公に彼女を守る騎士たちという王道ファンタジーなのですが、それを上回るほどの細やかで個性的なストーリーの在り方、キャラクターのリアリティさはここ最近の少女漫画界の中でもトップを争うものとなるでしょう。

以下、内容に触れていきたいと思います。
(ここから先はネタバレも含みますので、ご注意ください。)

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まず、初めにフレイヤと両想いである王国の黒騎士アーロンの存在について述べていきたい。

アーロンはまさしく正統派ヒーローだ。
この彼の存在の大きさこそ、『偽りのフレイヤ』最大の特徴であると言っても過言ではない。

というのも、このアーロン、散々ヒーローのヒーローたる台詞や仕草、シチュエーションをやり尽したのち、一巻の中盤で死んでしまうのである。
それも、生死が不明というような描かれ方ではなく、首を跳ね飛ばされるという実に少女漫画らしからぬ表現方法によって。

私はここに作者の勇気を見た。

なぜならば、アーロンは正統派ヒーローであったからだ。
それはもう、誰がどう見ても正統派だったのだ。

そんなキャラクターの死は何を意味しているのか。
それは、今後フレイヤのヒーローとなる人物がアーロンとは全く違うタイプのヒーローとなる、ということを指している。

つまり、同じタイプのヒーローしか描けない作者であったのなら、恐らくアーロンを殺すという選択に躊躇していたことだろう。
あるいは、アーロンのヒーロー的性格が実に中途半端に描かれていたことになっていたかもしれない。
(本当のヒーローが二番煎じにならないように、日和見になってしまう気持ちは良く分かる)

しかし、この真っ当たるヒーローであったアーロンの存在があったからこそ、アーロンに惹かれるフレイヤの気持ちもよく分かったし、何よりその死に対する思いにも大いに共感することとなったのだ。
(これが中途半端なヒーローであったとしたら、こうもフレイヤを好きにはなれなかったでしょう)

また、アーロンがフレイヤを好きになった理由がきちんと描かれていたことも高評価である。
その描写がなければ、「なぜ完璧ヒーローがただの町娘を好きになったのか?」という大きな疑問が残ってしまっただろう。

そんなアーロンの死を経て、フレイヤは大切なもう一人の幼馴染アレク(彼はアーロンの弟で、彼もまたフレイヤに恋をしている)や故郷の村を人質に取られることで、亡き王子の代わりをすることになる。
そこで、白騎士ユリウスが近衛兵としてフレイヤの面倒を見ることになるのだ。

ここのストーリー展開も面白い。

否応なしに男装をする羽目になった主人公は、「自分の大切な人をこれ以上失いたくはない」という自分の利益だけの思いにより王子になるという選択をするのである。
そんな彼女が王子として、国や民、臣下たちと触れ合うことで守りたいと思う人が増えていき、ゆっくりと本当の統治者として成長していくのであろうと想像できる。

つまり、フレイヤという少女は、テンプレ的「私がなんとかしなきゃ」というような傲慢無垢な主人公ではなかったのだ。
それが実にリアルに描かれている。彼女の感情一つ一つが細やかに表現され、読者はそれこそ否応なしにフレイヤという一人の有り触れた少女に親近感を感じるだろう。

このリアリティさ、親近感こそが彼女の最大の魅力であると思う。

突飛な感性を持たず、突飛な価値観を持たない主人公というものは、私たちも安心して一緒に成長していけるのだ。
置いてけぼりを喰らわないだろうという安心感は、同時に彼女の身に振りかかる危機や絶望に一緒にはらはらしていけるということだ。
(チート主人公の危機的状況ほど、痛快かつつまらないものはないのだから)

そんな彼女の前に現れたユリウスの話もしよう。
彼もまた、実にリアリティ溢れるキャラクターなのだ。

ユリウスは、一巻では一貫して今は亡き王子に忠誠を誓っている。
これもまたテンプレ的逆ハーレム展開にならなかった理由だろう。

ゆっくりと時間をかけ、フレイヤに惹かれていく。
そんなユリウスが今後見られると考えている。

そして、時間をかけた恋愛ほど甘く切ないものはない。
特に少女漫画という世界線においては。

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まだ一巻しか刊行されていない為、二巻以降どうなっていくのかという不安はありつつも、今後も非常に楽しみな漫画です。
(アレクとユリウスのどちらがヒーローになるのか、そこもまた見どころだと思います。)

最後に、素敵なキャラクターたちに出会わせてくれた石原ケイコ先生に多大なる感謝と尊敬の思いを込めて。
それではまた、どこかで。