『オールドファッションカップケーキ』を、たべてみた。
こんにちは、高殿アカリです。
今回は『オールドファッションカップケーキ』(著:佐岸 左岸)というBL漫画を紹介します。
こちらは2020年1月に大洋図書さんより刊行されています。
まず、本作の最大の特徴として私が感じたのは「BLなのにBLじゃない!」というところです。
その為、BLが得意じゃない方にも興味を持っていただけたら嬉しいです。
とは言え、特殊なBLジャンル……苦手な方は自己責任でお願いします……。
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変わりばえのしない毎日を過ごす野末(39歳独身)と、そんな上司のことが気になる野末の部下・外川(29歳独身)の物語。
野末は優しく愛嬌もあり、仕事もできる。
しかし、当の本人は昇進意欲もなければ、結婚願望もなく……このままで良いんだよ……と何だかつまらない毎日を過ごしている。
そんな野末の部下である外川は無愛想だけど、真っ直ぐな好青年。
一途に野末を慕っているのが見ていていじらしい。
この作品はとにかく間が良い。
ゆったりと時間が流れていってるのが感じ取れる。
コマ割りが淡々と、味気ないほどにシンプルな分、細かい背景や小物のアップシーンなどが入っており、それが日常感を程よく醸し出している。(そしてお洒落。)
それらの演出から「変わりばえのしない毎日」というものをテーマにしてるのがよく分かる。
読者は何の違和感もなく、野末視点の日常に入り込んでいけるだろう。
そのうち、野末の日常には外川という他者が介入してくるようになる。
しかし、そこでもコマ割りは変わらない。
相変わらず、白々しいまでにどこまでもシンプルなのだ。
それは野末が外川に恋をしても変わらなかった。
寧ろ劇的に変わることのないコマ割りにより、読者は野末がゆったりとじわじわと恋に落ちていったんだな……ということを感じ取るだろう。
また、外川の存在自体が日常の一部として浸透していったんだなぁ……と感慨深くもなるだろう。
すると、変わりばえのしない毎日の「つまらなさ」を表していたはずのシンプルな表現こそが、いつの間にか、大切な人と過ごす毎日の「かけがえのなさ」の表れへと変化していっていることに気付かされる。
コマ割りが変化しないからこそ、得られた感動に私は脱帽した。
この作品は、BL漫画という特殊なジャンルに存在しながらも、その全てで表現しているのは「大切な人と過ごす日々のかけがえのなさ」というとても普遍的なものなのだ。
そして、それが無音寄りな演出で丁寧に描かれている。
この漫画を読み進めながら、私たちが聴かされるのは派手なBGMではなく、彼らの生活音なのだ。
何故ならそれこそが、"野末の日常"なのだから。
BL漫画にありがちなエロいシーンがほとんどないにも関わらず、潜在的なエロさを内包しているように感じるのはこのリアルさのせいだろう。
永遠にこの2人を見ていたい気持ちにさせられる。
そんな泣きたくなるくらい愛おしくて優しい物語なのだ。
それは幼馴染の結婚式に流れるホームビデオを観ているような感覚で読者の内側に落ちてくる。
私たちはページを読み進める毎にゆったりと、しっとりと、人生そのものの片鱗を存分に味わうだろう。
大切な人と過ごす毎日は、例え刺激的でなくともこんなにも愛おしく優しく、そして幸福なものなのだ、と。
人生の意味にまで考えを巡らすことが出来る作品なので、BLジャンルにとらわれず、色んな方に読んで欲しい。
『オールドファッションカップケーキ』はBLジャンルの良さを含みつつも、そのジャンルを超えた。
そして、ジャンルの枠を超越した作品ほど感動するものはない。
この佐岸先生の天才的なまでのバランス感覚に鳥肌が立った。
出会ってくれてありがとう、出会わせてくれてありがとう。
佐岸先生に最大の敬意と感謝と愛を込めて。
あぁ、願う事なら。
彼らの一生分のホームビデオを鑑賞していたいなぁ……笑
追伸:
続編も決定しているそうです。たのしみ!